花陰でまったりと…vv
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 



春の盛りを象徴するのが、
その幾重にもという重なりで
濃密な練り絹の花闇を織り出す満開の桜花なら。
次に訪のう新緑の季節を招くのは、
そんな桜がほろほろと
別れの涙を零すよに、
とめどなく散りゆく花吹雪ということか……。




     ◇◇



新しい季節の訪れの最も判りやすい四月は、
一年生なら新しい環境への緊張が、
最上級生なら受験が控えているという不安があるせいか、
なかなか過ぎゆかぬ、
何とも長い月だなぁという感慨になるもので。

 「あらでも私、さほど緊張はしませんでしたよ?」
 「私も、それほど緊張はなかったですね。」

外部入学でしたから覚えることは たんとありましたがと。
絹糸のような金の髪、
今日は上半分だけ引っつめに結い上げての
品よく後ろにまとめた七郎次。
手の甲の半ばまでを覆う、萌え袖のカーディガンも愛らしく、
そこから覗くきれいな指先を口元へ当てつつ、
そんなことをば思い出して見せたのは。
だってのに、やっぱり長いと感じた四月だったと続けたいのだろう。
うんうんと頷いた平八も同感だったらしかったものの、
そんな彼女らのお言いようへ、

 「忙しかったし…。」

マキシスカートの下へきちんと揃えたお膝の傍ら、
ぱかりと開いたバスケットから、
昨夜の内に焼いといた桜風味のロールケーキと
純白の各々皿を取り出しつつ、
久蔵が口にしたのがどういう意味か。
皆まで聞かずとも あとの二人へもちゃんと通じていて。

 「そういや、五月祭りの準備に駆り出されてもおりましたわね。」

ともすれば新入生歓迎もかねての、ちょっとしたお祭りごととお茶会と。
イギリス発祥のお祭りを模してのそれ、
五月の女王と、その傍づきの姫二人を選出し、
ティアラを冠する儀式とそれから。
OGを招いての演劇や吹奏楽などの発表会、
有志らが提供してくださった物品のバザーなどなど、
イベント盛り沢山のお祭りが連休中に催される女学園であり。
いきなり慣れのない行事にお付き合いさせられ、
それが相当に繁雑だったので、
軽い憂鬱さを伴ってのこと、長く感じたのかも知れぬ。

  イースターは やんないくせに。

  あらあらヘイさんたら、まだ根に持ってるの?

  だって、やっぱりおかしいですって。

  稲作主体の倭民族には一番大事な年の初め、
  そうじゃなくなった今時は今時で、
  年度初めという、
  やっぱり春先の忙しいときに玉子探しは無理ですよ。

  ………。(頷、頷)

言ったなぁ〜〜、きゃ〜ん、ヘイさんたら過激〜〜vvなどなどと、
相変わらず屈託なくの朗らかに。
芝居がかった素振りで叩く真似するお人があったり、
そうかと思や、真似と判っていればこそ、
こちらも“いや〜ん”なんて、大仰に避ける真似をしたりと。
屈託なくもそれは無邪気に、
葦草の青い香りも芳しい、下ろしたての花茣蓙に座ったまんま、
きゃっきゃと愛らしいお声で笑い転げの、
痩躯をくっつけ合ってのもつれ合いのと。
それは目映いまでの可憐さや稚さと、
ちょっぴり甘やかな色香を滲ませ。
それぞれに瑞々しい蠱惑をたたえた、
美少女揃いの、しかもお年頃のお嬢様がたが。
こちら、三木さんチのお庭の奥向きにて、
それぞれなりの愛らしさを目に目映いほど振り零しつつの、
無垢な笑顔でじゃれ合っていたものが。

  さら………っ、と

三木邸の広いお庭のどこからともなく、
一陣の風が吹きつけて。
椿の茂みやスズカケの梢を、さざ波のような音させて揺らし。
紅ばらさんの軽やかなくせっ毛や、
ひなげしさんのさらさらとした赤毛を
音もなく撫でていったかと思いきや。

 「   あ。」
 「わあ………。」

例えばグラス1杯の水をゆっくり傾けて零したとして、
例えば1リットル入る如雨露に満たされた水をゆっくり撒いたとして。
それはある程度の、恐らくは数秒で尽きてしまって終わるもの。
一抱えのカゴに入れた紙吹雪、
船から埠頭へ投げられた紙テープ、
新しい種を運ぶ 準備万端状態の綿ぼうし。
刹那の存在ゆえの、儚さや可憐。
そんな得難い“刻”が、
無限じゃないかと思うほど延々と続く空間が、
いきなりの突然、彼女らの目の前に現れたものだから。

 「素敵ですよねぇ。」
 「…、…、…。(頷、頷、頷)」
 「見事ですよ、うん。」

何で ここまで潔いのか、
どうしてこうも、一斉にはらはらと散り急ぐのか。
そう、こちらのお宅がご自慢の、
そりゃあ大きな桜の木が、
昨日、一昨日あたりから散り始めていたからと。
それを久蔵が口にしたところ、
余裕で咲いてる富貴な姿を見たからには、
そちらも見届けないと不公平かもと。
一体誰が言い出しっぺだったやら、
雨のように降りしきる花びらを見送りましょうの会を
急遽 設けたお嬢様たちだったようで。

 シチさんのところにもありましたよね。
 ええ、ウチのは枝垂れ桜で、
 でも とうに散り終えてしまってました。

一年のときほど振り回されてはないものの、
やっぱり何かと忙しい春だから。
咲き揃う満開を待ち兼ねてのお花見こそ、
何とか頑張って場や機会を作りもするが、

 『そういえば、
  散るところは通りすがりとかに初めて気がつくのよね。』

花見の後だって、見てない訳じゃあないけれど。
散り始めたらあっと言う間に、
誰かを呼ぶ間もないほど、ほぼ一斉に花がほどけてしまっての、
次の段階、葉桜へと一気に変わってしまうから。
それでのこと、大概、一人で見ることになる場合が多い気がすると。
惜しむような言い方をした白百合さんだったので、
だったらウチのを見送らないかと
とんとん拍子に話がまとまり。
昨日の今日というほども手早くも、この集まりとなった次第。

 「降るようにとは よく言いましたよね。」
 「……。(頷、頷)」
 「ほんの微かな風でも、こうまで舞い散りますか。」

思うことを口に出すものの、視線は桜の樹から剥がせない。
ちょっとした揺れへも耐え切れず、
さらさらと脆くも散り零れる様の儚さが、
あまりに見事で、凄絶で。

 「か弱くも散るというのが切ないってのもありますが。」

こんな風に一緒に見たいと思い立ったのは、
きっと満開の桜へ感じた切迫と遠くない気持ちからだと思う、と。
白百合さんが、
ガラスの筒型ティーサーバから
三人分のダージリンをカップへ淹れつつ口にして。

 「冬場の、シルエットがきれいな夕焼けとか、
  いやに輪郭のきれいな満月とか。
  思わぬときに観れた花火や、
  予想が出てなかったのに降って来た雪や雹ってサ。
  誰かに“見た?”って声かけて、
  同じ想いを共有したくなるでしょう?」

綺麗な見事な素晴らしいものであればあるほど、
誰かにこの感動を分かってほしいと思うけど。
例え写真を撮ってたって、
恐らくはここまでのインパクトは伝わるまいと思うから。

 大きな映画館で全国一斉ロードショーと謳ってる映画を観るのは、
 大画面で見たくなるよな
 壮大で凝ったシーンが気になるから…と、もう1つ。
 同じシーンで沢山の人たちと笑ったり感嘆したり、
 そんなくすぐったい楽しさがあるからで。

 「あのね、こういうことに
  男だ女だっていうのは違うのかもしれないけれど。」

でもね、アタシ、女の子でよかったって、
しかも、久蔵殿やヘイさんと
出会いなおせててよかったなって思うんだと。
白百合さんが、水蜜桃のような瑞々しい頬を赤く染め、
そんな風に言い出して。

 「こうして同じものを見て、
  胸を衝かれるほど切なかったとかどうとか、
  微妙なところまで判ってもらえるなんて。」

幼馴染くらい付き合いが長くなきゃあ無理ですのにね。
そんな言いようもまた、上手く言い表せてない気がして、
微妙に焦れたように笑った白百合さんへ、

 「判りますよ、シチさん。」
 「……。(頷、頷)」

想いはいつも、腹に沈めて黙って呑んでた、
それでもよかったことじゃあありますが。
思いや感じ方という微妙なものなればこそ、
判ってほしい判ってあげたいとするお互いで、
共有し合ってもいいじゃない。、

 「明日にも雨が降るんですってよ。」
 「あら、それって涙雨ですね。」

ちゃんと観てるよ。
咲いてたことも、さよならも。
お花に言いたいだけじゃない、
傍にいるお友達へも、あのね?
思いを分かち合いたいのが年頃のヲトメたるところだから。
寂しくないよね、
だって見守ったものと、
前の時代も、そして今も、分かり合えてる仲良し同士。
小さな胸元押さえ、切なげに見守る同じ花。


    あなたがいたこと、忘れない…。




   〜Fine〜 12.04.22.


  *あああ、なんか凄い眠いです。
   若い人はこういうこともないのかな。
   遊びに行ったり電話したりと
   ただただ忙しくって大変なんだろか。

   そして、大戦時代は切ないだけだったろう桜を
   今はほのぼの余裕で見守れるお嬢様ズです。

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